「去り斬り」こそ、弱者が身の周りの物を使って護身をする際の生命線となる。 「去る」という引き動作を行いながら、敵が我に接近し攻撃しようとして思わず出した身体の一部(多くの場合、手・腕・足)を斬る。これは昔日の武術の中で、あまりにも王道の戦術であった。去り斬りこそが、当たり前だったのである。 これは、古来の戦場における機動戦部隊行動と同じである。 威力偵察や偽装撤退により、敵が思わず追撃行動をし、敵の一部隊が孤立する。そこを旋回行動の末、移動しながら去り打ちをする。 モンゴル帝国の軽騎兵が、この機動戦術を担った。 (1)モンゴル軽騎兵は、敵の重装備騎兵とぶつかるが、すぐさま撤退する。これは偽装撤退である。 (2)敵の重装騎兵は思わずモンゴル軽騎兵を追撃をし、その敵部隊は敵本隊から突出し、敵は分断状態となる。 (3)軽騎兵は、突出したその部隊に向けて、移動を止めないで去りながら後方より迫りくる敵部隊に対し、高射角(半円軌道)による弓の雨を振らせ、追撃してくる敵騎兵の前衛を足止めし、部隊の機動力を奪う(部隊の前衛が毒矢による弓攻撃で損傷することで、その場に固まった状態となる)。 (4)動きが悪くなって、「動かぬ的」となった敵部隊の塊に、後方より強い弓で武装したモンゴル重装騎兵が、怒涛のごとく強弓と突進で襲い掛かる。そして、軽騎兵も反転し、重装騎兵との挟撃攻撃が始まる。 この部隊行動は、転掌の護衛官刀術における、「対一人護衛戦術」に似ている。 1.敵の最初の攻撃に対し、我は刀で受けることを一切せず、移動による間隔の創出で防御する。一太刀目を、後方移動によって、手技ではなく移動による物理的空間で回避するのである。 2.敵は思わず追ってくる。我が間隔を作ったことで、敵は「距離を詰め、威力ある斬撃のための軸づくりをし、そのうえで斬る」の三段階の作業を要求される。 3.この作業を、移動し続ける我にするためには、ある程度無理して前に出る必要がある。我は、その時突出する敵の身体の一部を斬る(打つ)のである。 モンゴル軽騎兵、そして自分の行動を見てお判りの通り、撤退をしながら攻防する者は、その移動を止めることはない。移動しながら射る。移動しながら斬る。移動しながら叩く、のである。止まったら補足されて命を落とすからだ。 護衛官刀術たる「転掌刀」は、去り斬り・去り打ち・去り突きの各種動作で構成されている。これらの動作における身体操作法の基本(翻身旋理・刀裏背走理)を最初に学ぶのが、前回に説明した「単換刀」である。 転掌源泉・単換刀における「去り斬り(移動斬り)」の要点~翻身旋理と刀裏背走理|https://youtu.be/9GiDSOdNBCQ 転掌刀では、以下の4つの主要型と、ふたつの変化型が存在する。 ◇陰陽上斬刀(いんようじょうざんとう) ◇按刀(あんとう) ◇背身刀(はいしんとう) ◇上翻刀(じょうほんとう) 護衛官刀術「転掌刀」の陰陽上斬刀|https://youtu.be/oVMmR-xJI2Y 護衛官刀術「転掌刀」の按刀|https://youtu.be/tmq6-h_bP_0 弊館刀術講習会では、「単換刀」にて、運足技術と、去り斬り技術を理解させ、その後、上記4刀術型を学習する。単換刀で、アニメ・映画で植え付けられた「前斬り至上主義」に疑問を投げかけ、引き続く転掌刀術4型で、去り斬りのメリットを体験してもらう。 華麗ではない。ただただシンプルである。当然である。移動しながらの対斜め後ろ去り斬り攻防である。複雑な動きはできない。 移動速度を落とさないことで、去り斬った後も止まらず旋回移動行動を採ることが可能となる。 移動による攻撃において「勢」を保つためには、攻撃の手を出した瞬間に斜め後方スライドの技法に入る。自分が出した攻撃が、当たるか当たらないかに固執しないことだ。 自分が放った攻撃を見続けるならば、身体は敵の眼前にとどまるため、敵の攻撃をもらいやすくなる。 しかし打った瞬間、自分の攻撃の結果を見ないことで、連動した斬撃を実行できるのだ。敵に対し、つかず離れずを実現させるためには、打った瞬間に、次の攻撃へ移行する必要がある。 転掌独学システム|https://nenkinkouza.com/video/ 独学システム対応。6/21護衛官刀術「転掌刀」講習会|https://nenkinkouza.com/workshop/tenshou-oneday-koushuukai.html 「警備職護衛術指導|過剰防衛を避け施設を守る護衛官刀術講習」|https://nenkinkouza.com/kobetushidou/course-keibiin.html
大切な人を守るための護衛官刀術講座(5)~「去り... 石川 教室・スクール情報を見ている人は、こちらの記事も見ています。