『八卦掌原型・清朝護衛官武術「転掌」から学ぶ自分護衛術』は、3月中旬に改訂第2版を発刊する予定です。 本日は、改訂第2版の「はじめに」を公開いたします。 本書は、第2版発刊を機に、一層独習に利用しやすいように改訂されています。全国で対面指導を受けられない有志に、転掌の「一定時間生存術」を伝えることができるよう、改善されています。 以下「はじめに」となります。 【はじめに】 本書の目的は、国内外で「誰もが本当に使える護身術」を求めている方に、清朝護衛館武術「転掌」における「一定時間生存」の護身術の独学法を解説することである。 転掌は説く。あなたのやることは、強者の土俵に立つために自分を強者化することではない、と。次いで、弱者であることを自認し、弱者ならではの戦い方を身につけ、弱者の戦い方が有利となる土俵に強者を引き込む方法を確立することである、と。 この教えによると、以下のふたつの技術が必要となるのが分かる。 (1)弱者ならではの戦い方の技術。 (2)弱者ならではの戦い方が有利となる土俵に、相手を引きずり込んで戦う技術。 このふたつの技術を具現化したものが「一定時間生存術」である。言い換えると「一定時間自分を護身する」技術となる。 襲撃者と力がぶつからない方向へスライド移動することによる間合い創出で攻撃をかわし、襲撃者が経験したことがない移動戦の渦中に引きずり込んで息を上がらせ足を止め、動きが鈍った機会を活かして離脱(もしくは電撃奇襲)する。 敵の力と抗しない、敵と接触しないことにここまでこだわった原因は、転掌の創始者が宦官(かんがん※去勢手術を施された宮中内男性官吏)であったこと、そして宮中内護衛武術に採用される野心があったため女性でも使用できる技術体系にこだわったこと、の2点にある。 創始者が宦官であったことは、強者と真っ向からぶつかり合うことのない技術体系が生まれる原因となった。つまり身体的資源不利者(以降「弱者」と呼ぶ)が使用することが大前提となる、前代未聞の「弱者専用武術・転掌」が誕生したのである。 その技術体系を洗練させ女性でも使用できる技術体系に昇華させたことで、女官・宮女も使用する宮中内護衛武術として採用されることになった。 創始者の思惑通り転掌は王朝御用武術となり、彼は護衛官・武術教師の地位を得て出世し、かつ転掌も中国国内にその名をとどろかせたのである。そして皆が知る「八卦掌」へと発展していくのである。 転掌は、使い手が弱者であるため、従来の武術のように「相手を積極的攻撃で倒して護衛する」手段を採用することができない。そのかわり「徹底した移動戦で一定時間自分を生存させることで囮となり護衛する」手段を主要手段として採用した。この「自分を一定時間生存させる」自分護衛技術は、「一定時間生存するための護身術」と同義となる。 この理由により、転掌の技術を練習方法も含めて解説することは、独習で護身術習得を目指している方々の利益になると確信した。 日本初の、八卦掌原型武術「転掌」の「一定時間自分護衛による生存護身術」を本格的に解説した独習者向け武術教書として、自信をもってあなたにおすすめする次第である。 転掌は現在、その技法が弱者生存の護身技法に特化しすぎていることもあり、強者使用前提の試合用格闘技全盛の風潮の中で失伝状態におちいっている。日本国内では、私の主催する武術指導団体「八卦掌水式館」だけが、その技法を伝えている状態である。 指導者がいないため、技法を指導者から直接学ぶ、という当たり前のことが難しくなってしまったのである。転掌の伝える、弱者生存護身術を学ぶためには、ほとんどの方が独学で学ぶしかない状態となっているのである。 この現状をかんがみ、「一人で練習することができる基本部分」を、型だけでなく術理をも公開し、型の理由を知ったうえで練習に取り組むことができるように解説した。加えて、一人で対人想定練習を積み重ねることができるような工夫をいくつか掲載した。 これらの内容ゆえに、小手先技術の習得でない身法から理解し習得する、根本原理から構築して「本当に使える護身術」の教科書となり得るのである。 本書では、清朝末期であれば門外不出の技法であった「歩き方」の技術と、斜め後方スライド対敵法たる「単換掌の術理」を解説している。護衛武術たる転掌の、自分護衛の技術段階を直接実現するものゆえ、ここでしっかりと学んで欲しい。 指導者に就き学ぶことができない独学者に配慮し、単換掌のシンプル版「推掌転掌式(すいしょうてんしょうしき)」で、敵に背を向けないで行う斜め後方スライドを練習して、最低限の敵対処法を習得する。 その後「蓋手掌転掌式(がいしゅしょうてんしょうしき)」で、敵に一瞬背を向けて行う斜め後方スライドを学習することで、あらゆる角度からの接近も焦らずにかわすことができる技術を養っていくことにする。 このふたつの身法を理解することで、移動戦の最中に接近してくる敵に、必要以上に近づかせない技術、身体を逃がしながらあしらう技術、不意に急接近された時に掴(つか)まれるその直前まで回避し得る技術を身に付けることができる。 転掌の一定時間生存術の中核は、めまぐるしい移動によって生じる「勢い」を利用し、敵の突進に対し、自分の身体を反対側へ移動させ、「共に下がりながら」打ち合わない状態で攻防することである。よって現代主流の、敵の眼の前にとどまり、豪快華麗な技法で敵と打ち合い倒すことを主眼とする近代格闘術の精密高度な制敵技法を学ぶよりも、格段に一人練習がしやすくなっている。 近代格闘術であれば、制敵練習において人を使った対人練習が常に必要となる。片や転掌では、身体に動作をしみ込ませる際、一人練習による膨大な繰り返しで、その技術の精度をある程度高めることができるのである。この事実は、指導者が身近に存在しない独習者諸氏に大きな希望を与える。 転掌も純然とした対敵制圧技法であるため、その全部を独学のみで極めることはできない。攻防技法が、間合い(敵との距離)が離れていることが前提であっても、制敵技法を要する武術であることに変わりはないからである。しかし対人練習は、人との練習時間の打ち合わせなどがあり、自由に行うことができないのが常である。 一人練習であれば、気兼ねなくいくらでも、好きな時間に取り組むことができる。この点を利用し、膨大なくり返しによって身体をしみ込ませることで、大きな成果を期待することができるようになる。実は私も、技術の確立に際しては、圧倒的に一人だけで練習していたのである。だからあなたにも、きっとできる。 独りよがりを避け、実際の戦いの場で「こんなはずではなかった」と感じないために、対人練習の機会がある時は参加し、それ以外では黙々と繰り返すと、高い技術を自然に得ることができる。「独学で武術は習得できない」というネット上にあふれる常識は、転掌には当てはまらないのである。 繰り返すが、本書にて示す内容は、創始者・董海川(とうかいせん)師が転掌を創った当時のままの、転掌の護身技術のエッセンス(ここに出し惜しみはない)と、それを理解したうえで取り組む一人練習(基本型練習・対人想定練習)である。対人想定練習とは、対敵をより具体的に想定した練習であり、実際に打つ動作や間合いの精度を高めるための練習である。 住んでいる地域に指導者がいなく、かつ遠方へ行く術もない方(例えば学生など)もいるだろう。そのような方は、本書の術理解説部分をしっかりと読み動作を学習した後、知人・友人・家族に、実際に追いかけてもらい、技で対抗する経験をして欲しい(海に面している地域にお住まいの方は、迫る波を敵と想定し技を出す練習をするのもよい)。それだけでも、水式館ホームページ内で公開している私の「敵急接近時に対する動き」との比較ができるようになる。 敵目線から見た私の動きをイメージしながら練習することが、指導を受けられない独習者にとって最良の方法となる。 水式館が年に数回開催する転掌・転掌式八卦掌の講習会を利用するのもいいだろう。転掌の指導門は水式館以外には無い状態ゆえ、時間が許す方は、金沢もしくは愛知まで来て対面で指導を受けてもらいたい。水式館の通信講座部にて一人練習法を学習し、人に追ってもらった練習を指導部に見てもらってアドバイスを受けるのもいいだろう。しかし道を拓くのは、己の「積み重ねる」意識である。 独学者は、今できる範囲内のことをし続け、積み重ねていくことが大切なのである。自分護衛術たる護身術とは、最も大切な「自分の命」を守るための、最もシビアな技術体系である。命がかかった技法ゆえ、「お気軽に」「楽に」「わずかの時間で」済ますことはできない。 転掌はその成立背景から、割と短期間で「一定時間生存術」を習得できる技術体系を持っている。しかし繰り返しによる積み重ねが必要なのは他の武術・格闘技とまったく変わらないのである。 本書を手に取ったあなたが「今そこにある危機」に直面しているならなおのこと、本文中にて説明される移動技術と敵接近時の対敵技術を繰り返して欲しい。そこで書かれた内容を血肉となるまで繰り返し、いざという時は遠慮などせず、全力で移動推進力を最高状態まで持っていき、襲撃者を翻弄して離脱のチャンスを創り出して欲しい。あなたが万が一の際、その身を守る栄冠を勝ち取ることを切に願っている。 追記 私の主催道場である八卦掌水式館では、転掌の術理によって再編成された八卦掌を「転掌式八卦掌」と呼ぶが、両者は同じ術理で構成された技術体系であることから、本書ではひとまとめに「転掌」と呼んで解説していくことにする。 2025年2月28日 改訂版出版にあたって 八卦掌第6世 楊家伝転掌第8世掌継人 八卦掌水式館 館長 水野義人
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