「強く信じれば夢は叶う」という自己啓発の思想があります。「引き寄せの法則」と言われるものです。子育て・教育界隈でも、このような言説はよく聞かれます。しかし、このような話を真に受けるのは危険な面もあります。方便だと分かった上で利用するのなら問題ないでしょうが、本気でのめり込んでしまうと怖い面があります。 まず、「引き寄せの法則」には科学的な根拠がないということを知っておきましょう。「ポジティブ心理学」という心理学の流派もないことはありませんが、その効果を検証した研究によりますと、ポジティブに考えることの効果は非常に小さなものにすぎませんし、長続きもしないことが明らかになっています。 そして、行動遺伝学という科学的実証研究によりますと、学力も、非認知能力も、遺伝の影響をかなり受けることが分かっています。生まれつきの体質や気質である程度決まっているのです。これが科学的な事実なのですから、「強く信じれば夢は叶う」という言説の信頼性はほとんど無いと言わざるを得ません。 これらの科学的な事実をまず認識することが大切です。ここを疎かにしてしまうと、スピリチュアル系の自己啓発にハマってしまい、客観性のない妄想に突き進んでしまいます。 自分ひとりの人生なら、それでも良いのかもしれません。自分が信じたいことを信じて生きていくことを、誰も止めることはできないでしょう。しかし、子育ての主役は子どもです。親ではありません。親子ですから多少のエゴが入ってしまうのは避けられないとは思いますが、親の方が客観的な視点を捨ててしまったら、子どもは大きなリスクに晒されます。私はこれまでの指導経験の中で、これは「教育虐待」ではないかと感じたことが何度もあります。子ども本人の希望を聞かず、本人の適性も無視して、親が決めた理想のために無理難題を押し付ける、そういう教育です。 子育て本を読めば必ず書いてあるのは、「親の人生と子どもの人生は違う」ということです。これはまったくその通りです。私が科学的知見をもとに訴えていることも、要するにそういうことです。良識的な子育て本にはちゃんと肝心な教訓は書いてあります。しかし、保護者の中には、それでは飽き足らず、(たとえば義母が驚くような)素晴らしい成果を出そうとして、教育に過剰に入れ込む人もいるのです。また、それを煽るような人たちもいます。たとえば進学校のママ友の中にも教育熱心な「過激派」がいると思います。進学塾も煽ってきます。「もっとやらせないとまずいですよ」と言ってきます。どうしても煽られて、不安になってしまう人も多いようです。 そんなときは科学的事実を思い出してください。ポジティブ心理学にはほとんど効果が認められていないこと。学力や非認知能力(がんばる力、集中力など)には遺伝の影響がかなりあること。これらを思い出せば、過剰に煽られる必要がないことが分かります。 以上を踏まえた上で、実際に子どもに声をかけるときには、「頑張れば大丈夫だよ」と励ますのは大いにやったらいいと私は思います。科学的にいえばそれは気休めにすぎないのですが、方便だと分かっていて声をかけるのであれば、それは優しさですから、思いやりとしてちゃんと子どもにも伝わるでしょう。 子育てに悩んで自己啓発本を手に取る人は多いと思いますが、それはあくまで自分の心を整えるための読書なのであって、何かを子どもに押し付けるためのものではないはずです。親として一番大事なことは、健康な心で子どもと接することです。
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